有川浩『図書館戦争』

図書館戦争

図書館戦争

 内容:メディア良化法の元に武力行使の検閲を行う良化隊と、それに対抗するため、改正された図書館法の元に図書の自由を守る図書館隊。その武力闘争はきわめて合法的なものであり、警察は第三者に被害が及ばない限りは基本的に不干渉。主人公である笠原郁は、かつて良化隊の検閲から自分を救ってくれた図書館隊の「王子様」に憧れ、そしてもう一度出会うために図書館隊に入隊。上司の堂上をはじめ、一癖ある登場人物たちと共に図書の自由を守る中で、笠原は少しずつ成長してゆく。

 有川浩の本を読むのもこれで3冊目(前に読んだ米澤氏の本もちょうど3冊目)。前二冊は『空の中』と『レインツリーの国』。『空の中』は古き良き怪獣モノ×コミュニケーション。怪獣(名前忘れた)が持つ性質や、その性質を踏まえたうえでの怪獣と人間とのコミュニケーションの展開が面白い。『レインツリーの国』はわりとまっすぐな恋愛小説。特にレインツリーの国は主人公が惹かれあう過程における心理描写が細部まできっちりと書かれており、読み進める中で湧き上がる疑問点がきちんと解消されていったので好印象。

 とまあ前に読んだ作品に対する評価が高ので、有川浩の本は新刊が出るたびにきちんと購入しているのだが、上に挙げた二冊以外は全て積んでいる。それゆえにそろそろ崩さなければと思い立ったのも理由の一つだが、実際は既に始まっているTVアニメのせいである。原作を読む前に見るのはどうかと思い、ずっとHDに録り溜めたまま。このままでは容量を圧迫してゆくだけだと、半ば必要に迫られて読み始めた次第。同じ理由でCLANNADもそろそろ始めなければと思っている。とはいえこれはもっと早く読んでおくべきだったかな(積み本で面白かったものに対する感想はいつもそう)。

 児童ポルノ法の制限項目に二次元を含めるか否かという論争、某議員の発言など、表現の自由を取り巻く実際の話題は今も事欠かないわけで。それに対する問題提起という要素を少なからず含んでいるという面はありながらも、実際はその問題提起さえ舞台装置の一つであり、その上で繰り広げられる特殊部隊の描写と、笠原・堂上を中心とした人間関係にニヤニヤするのがやはりメインの楽しみ方だと思えた(もちろん舞台装置がしっかりしているからこそ、こうした人間関係が一層映えてくるわけだが)。

 メディア良化法と図書館隊のくだりは一見トンデモナイ設定のように見えて、一応説明がなされている。ただ冒頭のメディア良化法成立についての過程が謎に包まれているままなので、今のところ腑に落ちない印象があるのは確か。また主に図書館隊の登場人物が中心に物語が展開するので、良化隊および一般市民が武力行使についてどのような意見を持っているのかは知りたいところ。このあたりは続編で解消されていることを期待したい。

 単純一直線の笠原。それを容赦なく叱り飛ばす鬼教官の堂上、堂上の同僚で笑い上戸であり正しく正論を使う小牧。笠原とは対照的に理知的で情報屋の柴崎。天才肌でクールな手塚。豪快かつ用意周到な上司・玄田。誰一人として性格の被るキャラクターは存在せず、なおかつどのキャラクターも無駄なく動き回るのはさすが。『レインツリーの国』の時に感じていた心理描写の丁寧さも健在で、笠原が少しづつ堂上と打ち解けてゆく様子などは巧いと思った。そしてあのなんというお約束的展開。一時の流行としての設定が食傷気味になることは多々あれど、やはりこういう昔ながらのお約束はとても大事である。

 しかしまあ、実際こんな世界になったら行き辛いことこの上ない。さすがに良化隊なんてものは出来ないにしても、実際第三章に出てくるような、有害図書について神経質になる人というのは潜在的に多そうだ。