虚淵玄『Fate/Zero』

Fate/Zero Vol.1 -第四次聖杯戦争秘話- (書籍)

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Fate/Zero Vol.2 -王たちの狂宴- (書籍)

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Fate/Zero Vol.3 -散りゆく者たち- (書籍)

Fate/Zero Vol.3 -散りゆく者たち- (書籍)

Fate/Zero Vol.4 -煉獄の炎- (書籍)

Fate/Zero Vol.4 -煉獄の炎- (書籍)

 聖杯戦争――どんな願いも叶えてくれるという聖杯をめぐり、六十年に一度繰り広げられる戦争。この戦争に望むは七人のマスターと、彼らによって召喚される七人の英霊=サーヴァント。彼らはただ一組にのみもたらされる聖杯の効用を求め、最後の一組になるまで殺し合いを続ける。長年抱き続けた願いを成就せんという者、己が矜持を示さんがために参加する者、そして理由なく、ただ巻き込まれた者。様々な思いが交錯するこの戦争において、しかし聖杯を手にするものが一組のマスターとサーヴァントのみである以上、死地に赴く者達が滅してゆくは必定。
 最強のサーヴァントであるセイバーを従える衛宮切嗣もまた、その死地に赴く一人であった。世界の全てを救いたいという、あまりにも優しくて儚いユメを抱き続け、そうして多くの人を救うために、多くの人を殺しつくす機械と成り果てた男。
 アサシンのサーヴァントを従える言峰綺礼もまた、その死地に赴く一人であった。自傷行為に等いしい鍛錬の果てに望むものがあると信じながらも、己が真に望むものを見つけられぬまま――そして衛宮切嗣との邂逅にこそ答えがあると信じ、聖杯戦争に参加する男。
 畢竟、第四次聖杯戦争とは、この二人の物語に尽きる。これより十数年の後に行われる第五次聖杯戦争は、彼らとその他のマスターたちの妄執の果てに築かれている。そのことを知るのは、生き残った者達だけ。
 否、この死地に参加する者達が臨むは今この時――さあ始めようこの妥協亡き殺し合いを。

 
 『Fate/Stay night』の外伝として位置づけられるこの話では、本編では曖昧にしか語られることのなかった第四次聖杯戦争を舞台に、衛宮切嗣言峰綺礼という二人の男を中心として話が進められてゆく。あくまで外伝であるこの作品を十二分に楽しむためには、当然ながら『Fate/Stay night』を先に読んでおくことは自明であるが、その見返りとしてこの作品がもたらすものは非常に大きい。奈須きのこという、あまりにアクの強い作家が生み出した原作を、こうもうまく調理してしまうことの出来る虚淵玄の筆力は、初めて読んだ私にも充分感じることが出来た。

 Fateの面白さは何といっても各マスターとサーヴァント達が繰り広げる戦いに尽きる。特にサーヴァントがアーサー王佐々木小次郎といった、多くの読者にとって著名な英雄であることが最大の魅力である。しかもその登場人物は誰一人として、脇役に甘んじることなく活躍するのである。原作における各キャラクターの作りこみは深く、それだけに新たにサーヴァントを一から作り上げて、原作へと続く外伝を設えた虚淵の苦労は想像に難くないだろう。

 だが、結果として出来上がった『Fate/Zero』は筆者が違うにもかかわらず、原作と比較しても全く申し分のない出来であると私は思う。これこそFateの正規の前日譚なのだと、臆面もなくそう言えるだけの面白さがあった。

 無論、衛宮切嗣と、原作でも中心的な位置を占める言峰綺礼の過去を書いた話としての面白さはある。そしてFateの世界観をきちんと遵守した上で描かれる各キャラクターの魅力は最後まで読者を飽きさせることはない。しかしそれ以上に私がひきつけられたのは、原作に比肩するバトルシーンの数々である。その中からとりわけ強い印象を持った場面を抜き出すならば――アーチャーのゲートオブバビロンを無傷のままはじき返すバーサーカーの姿など、一体誰が予想しただろうか。

 そしてライダーのサーヴァントと、そのマスターであるウェイバー=ベルベット。この二人ほど印象に残るマスターとサーヴァントは他にいない。ヒヨッコのくせにプライドだけは高いウェイバーが、すべてを征服せんとするライダーの豪放な振る舞いに辟易しながらも、その性格に少しずつ影響を受け、成長してゆく様は素晴らしいの一言に尽きる。衛宮切嗣言峰綺礼を中心に話が進められてゆく中で、私の関心の半分はまさにライダーとウェイバーの動向に向けられていた。

 『Fate/Stay night』をプレイして面白かったという人は、読んでおいた方がいい。そしてプレイしたことがない人は、プレイしてでも読んだ方がいいのは言うまでもない。